賢治と鉱物 -文系のための鉱物学入門- / 加藤碵一、青木 正博 著

幼い頃から「石っこ賢さん」とあだ名されるほどの石好きだった宮沢賢治。 その賢治が生涯にわたって鉱物に惹かれ続けたのは、単なる趣味ではなかったのだと、この本を読んではじめて腑に落ちた。

本書は鉱物を色ごとに章立てし、青、緑、黄、赤、白、黒と順に辿りながら、賢治作品に登場する53種の鉱物をカラー写真とともに解説するという構成になっている。ページを開くと黒を背景にした鉱物写真が色鮮やかに際立ち目が奪われる。しかしこれは図鑑ではない。鉱物という切り口から賢治の言語感覚そのものへと踏み込んでいく批評の書だ。

賢治の作品は文体や単語の柔らかさと美しさから幻想的と表現されることが多く、ときに文脈が掴みづらく難解になる。それが何故なのかを鉱物と作品を紐づけることで解いていくという試みは、読んでいて謎解きのような趣がある。たとえば「ガスタルダイト」という、詩の中に突然現れる聞き慣れない言葉。それが何であり、なぜ賢治がそう書いたのかを知ったとき詩全体の色と温度が変わって見える。

「ルビーよりも赤くすきとほり、リチウムよりもうつくしく」賢治の言葉は鉱物が放つエネルギーと溶け合っている。 彼にとって鉱物の名は単なる名詞ではなく、音であり、色であり、地球の時間の圧縮だったのだと思いが耽る。詩の中に石を置くことで、現実と幻想のあいだに硬度を与えていたのだとわかる。

帯の推薦文に「宮澤賢治が見ているものを彼の肩越しに見るような思い」とある。文学者として有名だが歴とした科学者でもあった宮沢賢治が、どういう思いで数多の作品をあのように表現したのか、この本はその問いに、言葉ではなく石そのものを手渡すようにして答えてくれる。

宝石を扱う者として読むと、また別の感慨がある。石は黙っている。だが人間の感受性に触れたとき、石は語り出す。賢治はそのことを誰よりも知っていた詩人だったのだと思う。

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